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アルカナの抄 時の息吹

第5章 「恋人」正位置

「森野よ」

「モリノ――モリノだな?」

「ええ」

「モリノ。…よし、モリノ!俺はガロウだ。これからはそう呼べ、モリノ!」
嬉しそうに連呼する王に、あたしはとうとう吹き出す。王は自分の名が笑われたと思ったのか、ショックを受けているようだった。

「ごめん、違うのよ。冗談だったの」

王はキョトンとしている。

「真樹よ。森野じゃなくて」

「騙したのか?…偽名だったのか」

「そうじゃないの。森野は苗字。家族とか友達とかは真樹って呼ぶから、そっちで呼んで」

「……?わかった」

「あなたが森野って呼ぶと、なんか変ね」
上司みたいで笑っちゃったわ、とカラカラ笑う。

「マキ、でいいんだな?」

「ええ、そうよ。真樹よ」
にっこりと大きくうなずくと、王は安心したようだった。

「マキ。キスしろ」
王は、真顔でそんなことを言った。

…突然ね。

「キスしろ、じゃなくて、キスしたい、でしょ」

「ぐ……」

「キスしたいんでしょ?“ガロウ”」
名前を呼ぶと、呼ばれ慣れていないためか、王はビクリとひるんだ。

「したい…」

「全部言ってみて」
からかうように、にんまりとする。王が恨めしげにこちらを見た。

「ぐっ……」

「ガロウ?」
もう一度呼ぶ。王は恥ずかしそうに顔をそらす。

「キ、キス…したい」

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