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アルカナの抄 時の息吹

第5章 「恋人」正位置

しばらく経った頃。

「マキ。おまえとキスがしたい」
言い慣れたように、王が言った。


それもそのはずだった。あれから王は、毎日のようにキスを求めてきた。あたしも、その度に応えていた。だが、もうおしまい、続きはまたね、などと途中で打ち切っていたため、王はいつも物足りなさそうだった。

「…そのためにわざわざ呼び出したの?」
あたしが呆れるように言うと、王は首を縦に振った。

ここは、王の部屋。いつものように掃除をしているさ中、珍しくハースを通して呼び出しがあったため、何事かとやってきたのだ。

「今回はたっぷりやってもらうぞ」

…いつもたっぷりやってるじゃないの。

「またあとでね」

「だめだ。今キスしよう」

「どうしてあとじゃだめなの」

「どうしてもだ」

「強情ね。今じゃなくてもいいじゃないの」

「今じゃなければ逃げるだろ」

「逃げないわよ」

「とにかく今だ」

「どうしたのよ。そんなに焦って」
あたしが不安げに聞く。王は無言だ。

「とにかく、掃除中だし、今はだめよ」
夜にまた来るから、と言い聞かせるように言い、扉へ向かおうとする。

と。

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