
アルカナの抄 時の息吹
第5章 「恋人」正位置
「…帰さない」
背を向けようとしたあたしの腕をつかみ、王が言った。この声。これに似た声を…以前にも聞いたことがある。
そう…あの時。あたしが、“あの部屋”へ近づいた時の低い声だ。あたしは思い出す。あの支配的な…恐れを抱くような、冷たく響く声を。
『ここには近づくな』
『絶対に入るな。入ったら殺す』
それともまた、わずかに違う声。冷たさはなく、何者をもひれ伏させる力をただひたすら持つ…そんな声で、王は言う。
「おまえが、ほしい」
ゆっくりと振り返ると、王の顔がすぐ近くにあった。声の印象とは裏腹に、温かく、それでいて少しだけ切なさをたたえた瞳で、こちらをじっと見ていた。
「ガロウ…」
「掃除など他の者がやればいい。おまえは、ここにいろ」
「だけど」
「愛してる。マキ」
愛しげにそう言い、王は自ら唇を寄せる。
抵抗はしない。あたしは、つかまれていない方の手を伸ばし、王の頬に触れた。重なり合う唇。それだけでは飽きたらず、もっと、もっとと王は求めてくる。
互いの味を確かめるように。舌を、絡ませる。目を閉じて、ひたすら互いを感じた。
ぱ、と王が目を開けた。
背を向けようとしたあたしの腕をつかみ、王が言った。この声。これに似た声を…以前にも聞いたことがある。
そう…あの時。あたしが、“あの部屋”へ近づいた時の低い声だ。あたしは思い出す。あの支配的な…恐れを抱くような、冷たく響く声を。
『ここには近づくな』
『絶対に入るな。入ったら殺す』
それともまた、わずかに違う声。冷たさはなく、何者をもひれ伏させる力をただひたすら持つ…そんな声で、王は言う。
「おまえが、ほしい」
ゆっくりと振り返ると、王の顔がすぐ近くにあった。声の印象とは裏腹に、温かく、それでいて少しだけ切なさをたたえた瞳で、こちらをじっと見ていた。
「ガロウ…」
「掃除など他の者がやればいい。おまえは、ここにいろ」
「だけど」
「愛してる。マキ」
愛しげにそう言い、王は自ら唇を寄せる。
抵抗はしない。あたしは、つかまれていない方の手を伸ばし、王の頬に触れた。重なり合う唇。それだけでは飽きたらず、もっと、もっとと王は求めてくる。
互いの味を確かめるように。舌を、絡ませる。目を閉じて、ひたすら互いを感じた。
ぱ、と王が目を開けた。
