アルカナの抄 時の息吹
第7章 「審判」逆位置
結局あたしはハースしか思いつかず、彼に緊急事態を伝えた。すでに息がないとは言えず、何者かに青年が撃たれたから人を呼んでほしいとだけ。
ハースは、さすが長く王に仕える側近、そういった事態への手配に慣れていた。高貴な人の危篤の際には、誰を呼び、何をすればよいかよくわかっており、また、運び込まれた青年が亡くなっているとわかると、葬儀の準備に移行しててきぱきと事を進めた。
もちろん、犯人の特定・捕縛も急いでいる。青年は、戦争の相手国のうちの、いずれかの国の者だろうことは推測していたようだったが、それ以上は何も言っていなかった。
王はこうした間、自室に引きこもりがちになってしまっていた。最初の何日かは、一人になりたいだろうとそっとしておいたが、さすがに心配になる。
あたしは王の寝室の扉を少しだけ開け、中の様子を見てみた。王は、ベッドに座り、うつむいていた。静かに傍らに立つが、何の反応もない。
ガロウ…。つらいわよね。なんだかんだあっても肉親だもの。
王は屍のように動かない。なんて声をかけたらいいのかわからず、ただ無言で寄り添うしかなかった。
「…わからないんだ」
王がにわかに、ぽつりと呟いた。
「なぜこんなに苦しいのか…」
ぽつり、ぽつりと言葉を紡いでいく。
「――あんなに、嫌いだったのに。憎んでいたのに、あいつのこと。なぜ、」
「――今、死ぬんだ」
王の目から、雫がこぼれ落ちた。
ああ、どうすればいいの。あたしには何もできない…。
「ガロウ…」
胸にそっと抱き締める。そんなことしかできない自分がもどかしかった。
過去を見るよりも。一日だけでいい…、死者を蘇らせる力があれば。
こんな形で突然身内を失った彼を、少しでも救うことができるのに。
あたしの胸に顔をうずめる王は、ゆっくりと耳に届く心音に安心したのか、そっと目を閉じ穏やかな顔つきになった。
ハースは、さすが長く王に仕える側近、そういった事態への手配に慣れていた。高貴な人の危篤の際には、誰を呼び、何をすればよいかよくわかっており、また、運び込まれた青年が亡くなっているとわかると、葬儀の準備に移行しててきぱきと事を進めた。
もちろん、犯人の特定・捕縛も急いでいる。青年は、戦争の相手国のうちの、いずれかの国の者だろうことは推測していたようだったが、それ以上は何も言っていなかった。
王はこうした間、自室に引きこもりがちになってしまっていた。最初の何日かは、一人になりたいだろうとそっとしておいたが、さすがに心配になる。
あたしは王の寝室の扉を少しだけ開け、中の様子を見てみた。王は、ベッドに座り、うつむいていた。静かに傍らに立つが、何の反応もない。
ガロウ…。つらいわよね。なんだかんだあっても肉親だもの。
王は屍のように動かない。なんて声をかけたらいいのかわからず、ただ無言で寄り添うしかなかった。
「…わからないんだ」
王がにわかに、ぽつりと呟いた。
「なぜこんなに苦しいのか…」
ぽつり、ぽつりと言葉を紡いでいく。
「――あんなに、嫌いだったのに。憎んでいたのに、あいつのこと。なぜ、」
「――今、死ぬんだ」
王の目から、雫がこぼれ落ちた。
ああ、どうすればいいの。あたしには何もできない…。
「ガロウ…」
胸にそっと抱き締める。そんなことしかできない自分がもどかしかった。
過去を見るよりも。一日だけでいい…、死者を蘇らせる力があれば。
こんな形で突然身内を失った彼を、少しでも救うことができるのに。
あたしの胸に顔をうずめる王は、ゆっくりと耳に届く心音に安心したのか、そっと目を閉じ穏やかな顔つきになった。