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サンタとトナカイ、天使と私
第2章 神父
冬の水道水は冷たくて私の手は真っ赤にかじかんでいる。薫さんは料理の下ごしらえは使用人にさせると言っていたことを思い出した。
料理をしている時だけが無心になれるからお気に入りの時間だったのに、今日はさすがに何も考えないわけにはいかないみたいだ。
私は茹でた七面鳥をオーブンに入れると、束ねていた髪を解きマフラーをつけて外へ出た。
「澪さん、今年も来てくれたんですね」
白い髪と立派な髭をたくわえた神父さんは大勢集まる信者や聖歌隊の人々の中心から抜け出すと私の方へゆっくりと歩いてきた。
「はい。洗礼者でもないのに毎年迎えてくださってありがとうございます」
「洗礼されているかどうかなんて関係ありません。澪さんのその澄んだ心があなたをこんな古い教会に向かわせているんです。それだけで十分ですよ」
神父さんはそう言いながら私に演奏のプログラムを手渡した。
「今年もすぐに帰るのだろうけど、気が向いたら来てください」
穏やかな表情と声が私の心を綺麗にしてくれた気がした。
「ありがとうございます」
「こちらこそ。毎月、ありがとうございます。子供達も喜んでいますよ」
私は緩んだ涙腺を隠すため頷くと静かに毎年繰り返す感謝の気持ちと共に礼拝をし、用意していた紙幣を献金すると教会をあとにした。
教会は古く、小さいがその外観と内装は美しい。装飾が豪華なのではなく、むしろ質素であることを誇りに思っているかのようなその佇まいが本当の美しさなのだと思わされる。
初めてここを訪れた時は私が小学生の頃だった。それから毎年こうしてクリスマスイヴになると足を運んでいる。
ここにいる神父さんは若くして奥様を亡くしてからも親のいない子供や虐待を受けた子供たちを預かり、自分の子供のように面倒を見ていた。成長した子供たちがまた教会へ預けられた子供たちの面倒を見、神父さんを助けているのだ。
そのことを知ってからは毎月、本や服を教会にこっそり届けていた。少しでも力になりたいのに、光の進学にかかる費用と生活費を考えるとそのくらいのことしかできず心苦しかったけれど、神父さんのさっきの言葉に救われた。私は貰ったプログラムの紙に書かれた最後の曲名を見た。トナカイさんはどうしてか今日は何度も私の中に飛び込んでくるらしい。
紙を四つに折ると、それをコートのポケットに滑り込ませた。
料理をしている時だけが無心になれるからお気に入りの時間だったのに、今日はさすがに何も考えないわけにはいかないみたいだ。
私は茹でた七面鳥をオーブンに入れると、束ねていた髪を解きマフラーをつけて外へ出た。
「澪さん、今年も来てくれたんですね」
白い髪と立派な髭をたくわえた神父さんは大勢集まる信者や聖歌隊の人々の中心から抜け出すと私の方へゆっくりと歩いてきた。
「はい。洗礼者でもないのに毎年迎えてくださってありがとうございます」
「洗礼されているかどうかなんて関係ありません。澪さんのその澄んだ心があなたをこんな古い教会に向かわせているんです。それだけで十分ですよ」
神父さんはそう言いながら私に演奏のプログラムを手渡した。
「今年もすぐに帰るのだろうけど、気が向いたら来てください」
穏やかな表情と声が私の心を綺麗にしてくれた気がした。
「ありがとうございます」
「こちらこそ。毎月、ありがとうございます。子供達も喜んでいますよ」
私は緩んだ涙腺を隠すため頷くと静かに毎年繰り返す感謝の気持ちと共に礼拝をし、用意していた紙幣を献金すると教会をあとにした。
教会は古く、小さいがその外観と内装は美しい。装飾が豪華なのではなく、むしろ質素であることを誇りに思っているかのようなその佇まいが本当の美しさなのだと思わされる。
初めてここを訪れた時は私が小学生の頃だった。それから毎年こうしてクリスマスイヴになると足を運んでいる。
ここにいる神父さんは若くして奥様を亡くしてからも親のいない子供や虐待を受けた子供たちを預かり、自分の子供のように面倒を見ていた。成長した子供たちがまた教会へ預けられた子供たちの面倒を見、神父さんを助けているのだ。
そのことを知ってからは毎月、本や服を教会にこっそり届けていた。少しでも力になりたいのに、光の進学にかかる費用と生活費を考えるとそのくらいのことしかできず心苦しかったけれど、神父さんのさっきの言葉に救われた。私は貰ったプログラムの紙に書かれた最後の曲名を見た。トナカイさんはどうしてか今日は何度も私の中に飛び込んでくるらしい。
紙を四つに折ると、それをコートのポケットに滑り込ませた。
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