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サンタとトナカイ、天使と私

第3章 青年

「うっわー。姉ちゃんのロースト・ターキー! 一年前から楽しみにしてたんだよな」
「去年もいっぱい食べてたもんね」
「去年は部活の奴らが来て俺あんま食えなかったんだよ」
 光は部活の大きな荷物を下ろし、洗面所へ向かった。
「今年はあの子たち来ないの?」
 洗面所に向かって大きな声で叫ぶと、水の流れる音が止まって光が顔を出した。
「えっと……」
「ん?」
 光が気まずそうな顔をした。
「その、今年は来るなって言ったんだけど、行くって言って聞かなくて」
「別にいいのに。七面鳥だって二人じゃ多すぎるでしょ、皆で食べたほうがいいのよ」
 私の言葉を聞くと光は嬉しそうに玄関まで走って行った。まさか、この寒い季節に玄関前で待たせていたのだろうか。
「おい、いいってよ。入れ」
 そのまさかだった。
「お久しぶりです。レイさん、今年もお邪魔します」
「お邪魔しまーす。おおっ! むっちゃええ匂いするやん」
 入ってきたのは二人だった。一人は去年も来ていた光の親友の悠斗くん。
 もう一人の子には見覚えがなかった。
「おお、ほら俺の姉ちゃん。姉ちゃん、こいつ最近転校してきた雅。連れていけってうるさいから持ってきた」
 まるで物のような言い方に私は吹き出してしまった。
 光も背が低いほうではないけれど、雅くんと並んでいると低く見えてしまう。ラルフさんより少し低いくらいかな、と思って悲しくなったので笑顔を作った。
「いらっしゃい。ごめんね、光が玄関前で待たせてたみたいで」
 雅くんはよく日に焼けた肌で身体が細いように見えるけれど、筋肉は程良くついているようだった。それでもまだ高校生なだけあってあどけない印象は残っている。
 小さな顔は整っていて、学校ではとても女の子から人気があろうことが想像できた。
「あ、急におしかけてすいません」
 頭を下げる雅くんが可愛いと思った。
「いいのよ。ほら、早く手を洗ってきて一緒に食べましょう」
「これ、俺と雅からです」
 悠斗くんが差しだした箱を覗くとルビーのような真っ赤なタルトがあった。

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