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サンタとトナカイ、天使と私

第3章 青年

 私の大好きな苺タルトだった。
「うわぁ、ありがとう」 
 二人とも恥ずかしそうなはにかみ顔をした。

「うっま!!」
「だろー、レイさんの手料理半端ないんだよ」
「ま、俺の姉ちゃんだから当然だ」
「お前、家庭科の調理実習で卵焼き真っ黒にさせただろ」
「そうそう、あれむっちゃおもろかったわ」
 嬉しそうに七面鳥や生牡蠣にレモンをかけたもの、コーンスープにサラダを頬張っていく。どれも調理といった調理をしていない簡単なものですこし申し訳なく思った。
 それにしても卵焼きもろくに作れないなんて……すこし甘やかしすぎたかな、これからは朝食くらい光に作らせてみよう。
「えー。本当に? 卵焼きをどうすれば真っ黒にできるのよ」
「どのくらい焼けば火が通るのか分かんなくて……」
 光は眉間に皺を寄せてトマトをつっついた。が、すぐに顔を上げて雅くんを見た。
「雅だって卵焼きクレープみたいにしてたじゃねえか」
「ぶはっ、クレープちゃうし! 卵焼きは甘いもんやろ」
 確か、関西では甘めの卵焼きが好まれるっけ。
「雅くんは関西出身なのね」
「あ、はい」
「関西弁って可愛いわね」
 チーズをつまみながら何も考えずぼんやり呟くと、雅くんが勢いよく咳込み始めた。
「だ、大丈夫っ!?」
「おい、雅」
 悠斗くんは面白そうに雅くんの背中をさすっている。
 光も心配そうに雅くんの顔を覗き込んだ。
「うっわ、お前顔真っ赤じゃねえか。どうした?」
「どうした、ってお前……本当に天然だよな。あ、大丈夫ですよ、レイさん」
 悠斗くんは呆れ顔で私に微笑んだ。
 夕食を食べ終える頃には窓の外は真っ暗でキラキラと街路樹が輝いていた。
「ふたりともお家の方には連絡してるの?」
 悠斗くんと雅くんは揃って「はい」と返事をした。
 悠斗くんの家庭は共働きで一人っ子だから、毎年イヴの夜は一人で過ごしていたと光から聞いている。雅くんのほうはどうなのだろう。せっかくのクリスマスイヴを家族で過ごさなくていいのだろうか。
 雅くんを見ると私の買ってきたサンタクロースのひげをつけて遊んでいた。
 不意に頬が緩む。
「姉ちゃん、イルミネーション見に行こうよ!」

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