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サンタとトナカイ、天使と私

第3章 青年

 私は急いで雅くんと距離を置いた。周りを見回すと何人かの女の子たちが雅くんの姿に釘付けになっているのが見えた。やっぱり彼の存在は人目をひくくらい格好いい。あのうちの誰かが雅くんの好きな女の子なのだ。
「レイさん」
 雅くんが私の名前を呼んだ。
 私は前を歩いていた光たちの姿を探した。全然見当たらない。さきさきと歩いて行ってしまったのかもしれない。
「レイさん、俺……実は前にレイさんに会ったことあるんです」
「え?」
 思いもかけない言葉に首を傾げる。
「俺の実の母ちゃんは夏に死んだんです。肺が悪くって、それまで俺のこと一人で育ててくれてたのに急に倒れて……。そんで、父親の家に引き取られたんです。でも、その家には腹違いの姉と兄、それに父親の本妻。医者の家系でむっちゃエリートで、俺そんなん馴染めるわけないし、煙たがられてるの伝わってくるし。居場所なくて……この街ぶらぶら彷徨ってたんです」
「そんな……」
 明るく優しい雅くんがそんなもの抱えていたなんて。
「そのうち、なんや女の人らに囲まれてしもうて、無視してたんですけど身体にべたべた触ってきよって困っとったんです」
 確かにこんな子が一人で歩いていたら派手な女の子たちが寄ってくるだろう。
「ほんだら『邪魔』って冷たい声が聞こえて、一気に女の人らが振り返ってん。俺もつられて振り返ったら女の人がおった。高いヒール履いてるわりに身長は小さくて、顔も童顔で……せやけど、えらい上品な服着て、鞄と大きい封筒抱えてるん見たら大人なんやって分かった。まあ、そん時にお姉さんがどんな格好してたかとかいまいちよく覚えてへんねんけどな……お姉さんの雰囲気と顔見ただけで苦しなって」
「苦しく?」
「うん。上手く言えへんけど……きゅうーって……。そっそれで、女の人らがそのお姉さんにつっかかっていったから俺、急いで止めようとしたんやけど、その前にそのお姉さんが『道の真ん中で男の子に群がるなんてはしたないことしてないで、そんなに騒ぎたいなら別の所へ行きなさい』って言ったんよ。その声がすっごい恐くてさ、女の人らも急にしょんぼりしてどっか逃げるように去っていった」
 私は「あ」と声を漏らした。
「思い出してくれた?」
「あの時の男の子ね」
 雅くんはうん、と嬉しそうに勢いよく頷いた。

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