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サンタとトナカイ、天使と私

第3章 青年

 そう、あの時は道に広がって騒いでいる女の子たちが邪魔で周りの通行人の邪魔になっていたからつい怒ってしまったのだ。それと、女の子たちがラルフさんに群がる社員の女の子たちと少しかぶって見えたせいもあるかもしれない。
 その女の子たちがどこかへ行くと生気のない目をした男の子がいて、驚いた。男の子の存在が儚く見えて、元気づけなくてはという気持ちになったのだった。

「あの時のレイさんむっちゃかっこよくて、俺ぼけーっと突っ立ってたらレイさんが」

「お菓子あげたのよね」
「飴ちゃんです。しかも、黄金糖」
 雅くんはポケットから透明のビニールで折った小さな鶴を取り出した。
「嬉しくて、これお守りにしてるんです」
「お守りって……」
 ただの飴の包み紙が大事にされているのをもう一度見た。
「レイさんが『甘いもの食べたら幸せになるのってどうしてかな』って言ったんですよ」
 そんなことを言った気もする。
「雅くんよく覚えてるんだね」
「当り前です! あれから俺、レイさんのこと捜してたんです。それで、今日見つけた」
 雅くんの小麦色の肌が店の光と電灯と、街路樹のイルミネーションで輝く。
「どうして?」
「あの時のお礼が言いたかったんと……」
 雅くんは息を大きく吸い込んだ。
「連絡先も聞きたくて……」
 吐き出された真っ白な息が漆黒の空へ飲み込まれていった。
 目の前にいる瑞々しい高校生が意を決して私に言ったことが、連絡先。こんなに純粋な気持ちをぶつけられたのはいつぶりだろう、もしかすると初めてかもしれない。
 ラルフさんは私に社内で書類を渡すときにさっとアドレスと電話番号をかいたメモをそこに紛れこませていた。その時は嬉しかったけれど、よく考えれば社内の女の子全員にこっそり連絡先を渡していたのかもしれない。もちろん薫さんにも。今頃ふたりは高いビルの素敵なレストランで食事でもしているのだろう……。
 私はコートのポケットから携帯を取り出した。
 雅くんはそれを見て嬉しそうな顔で同じように自分の携帯を取り出した。男らしくなったら可愛くなったりずるい子だなと思った。
「レイさんって澪って書くんですね。なんかかっこいい」
「ありがと。雅くんもかっこいいわよ」
「へへっ、照れる」
 連絡先を交換してから笑い合いながら道を歩いた。

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