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サンタとトナカイ、天使と私

第1章 美女

「ずっといい友人でいてほしいって言ってたわよ」
 そう告げられたのは一週間前のことだった。
 薫さんは三十歳にしてもうすでに外資系大手の社内で部長にまでなっているキャリアウーマンの象徴みたいな人だ。
 仕事の効率がやけによく海外を飛び回り英語や中国語、ドイツ語でプレゼンを堂々と行い、パーティーには積極的に顔を出して仕事を取ってくる。
 しかも日本人離れした長身でスタイルがよく、小ぶりな顔のパーツは全て小さめで見本のように綺麗に配置されていて、日本人を強調したような黒髪ストレートロングは外国人だけでなく日本人すら見惚れるものだ。
 社内でも若い男性社員は憧れの眼差しで彼女を見つめ、中年上司たちは彼女の企画なら鼻の下を伸ばして快く受け入れる。都会の一流企業で生き残るには彼女のような華やかさが必要不可欠なのだ。
 そんな華やいだ薫さんが就業時間に私のデスクへわざわざ足を運んだものだから、私は内心ひやひやしてしまった。
 ここ最近提案したプロジェクト、作成したプレゼンテーションの資料、チェックした社内のデータ。それらをキーボードを叩く私の肩に薫さんが触れた瞬間無意識に思い返していた。
 しかし、彼女の発した言葉は穏やかだった。
「今日はもうあがりよね? 夕食一緒にどうかしら」
 部長に誘われては断れるはずがない。私は短く了解の返事をした。
 薫さんに連れられていったのはお洒落なイタリアンのお店だった。薫さんらしい。
 どこまでも憧れの女性像である彼女が輝いて見えた。
「あの、それで今日はどうされたんですか?」
 薫さんと私のワイングラスに赤い色の液体が注ぎ込まれているとき思い切って聞いた。
 今の会社に入れたことは私にとって神様からのプレゼントだと思っている。
 一流大学を出たわけでもないのに、憧れていたこの会社は私を採用してくれたのだ。
 入社したものの周りの人たちは私より遥かに頭が良かった。皆の足を引っ張らないよう、会社の役に立てるようにと毎日一生懸命仕事をこなしてきたつもりだったけれど、やっぱり私は会社には不必要だったのだろうか。薫さんの斜め後ろを歩く間ずっと『クビ』の二文字が頭から離れないでいた。

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