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サンタとトナカイ、天使と私

第4章 王子

「レイ、僕は君に……女性として好意を持っている。だから、どんな手を使ってでも君を奪い返すよ。今の僕の地位を利用して、汚いことをしてでも君を奪ってみせるから」
 隣りにいる雅くんが咄嗟に私の手を強く握った。
「え?」
 ラルフさんの唇が紡いだ言葉の意味が私には理解できなかった。
「今夜、君にそう伝えようと思っていた。だから君から誘いが来たときはすごく嬉しかった。でも、約束の場所に君はいなかった。悲しかったよ。僕のことを男として見てくれていなかったなんて……それでも僕は決して君を諦めない。諦められないんだ」
 雅くんの手に込められた力は強くなってとうとう離れようとしなかった。
 そのうち、今度は雅くんが私の引っ張って歩き出した。私は安堵した。
 私はラルフさんの姿を見ることができない。雅くんのせいではなくて、私の両方の目から涙が止まらないせいだ。声すら出せない。
 どうして友だちでいたいなんて薫さんに言ったの? 私に気のある素振りをして反応を楽しもうとしてるの?
 ううん。知っている。ラルフさんがそんな馬鹿げたことをする人じゃないってこと。じゃあ、どういうことなのだろう。混乱した頭が最悪なことばかり想像していく。
 こんな醜いことを考えている私の顔をラルフさんに見られたくなくて雅くんの強引さに感謝してしまう。そのことでラルフさんへの気持ちがただの憧れではなかったことに気付かされた。


「澪さん、すいません。でも、手離したらあの人の所に行って帰ってこんくなりそうで……恐くて。でも、それって俺の問題で、澪さんの気持ちなんて全然考えてへんくて。本当に最低ですよね、俺」
 そう言って項垂れる雅くんに首を振った。こちらこそ、あなたを利用するような真似してしまってごめんなさいという言葉は呑みこんだ。
 光が雅くんと悠斗くんを送るついでに男だけでクリスマスイヴをもう少し楽しんでくると言い出かけると、家の中が静まり返った。ふと窓の外に目をやる。

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