テキストサイズ

サンタとトナカイ、天使と私

第4章 王子

 天使の羽が降っていた。
 真っ白なそれは都会の地面に何枚も落ちるのに、無情にも一瞬で解けて消えてしまう。なのに、ひたすら振り続ける雪はなんだか切なくて焦れたく、そして愛らしい。
 思い立ってさっき脱いだコートを取って袖を通すと扉を開ける。
 古いアパートの開放廊下にも雪がきたらしく冷たい鉄の床が濡れていた。
 下に降りて雪が降る様子を眺めようと思った。
「……あ」
 階段の下から金色の頭が揺れながらこっちへ向かってきているのが見えた。
 私は驚きで何をすることもできずただ、その人物が来るのを階段の前で呆然と待っていた。
「わっ」
 片手でバラの花束を大事そうに抱えたその人は私が階段の前で突っ立っていることに驚いて目を見開いた。
 そして、彼は途端に頬を緩ませた。
「レイ」
「ラルフさん、どうして」
「言ったじゃないか。今日はレイに想いを伝えようと思っていたって」
 胸が詰まった。
 見ればラルフさんの広い肩幅を覆う黒いピーコートの上には僅かに白い雪が乗っていて、高い鼻の先が真っ赤に染まっていた。
 とりあえず部屋に入ってもらおうと口を開こうとした。
「レイ、受け取ってくれるかな」
 階段を上りきったラルフさんは私の目の前に来ると急に跪いた。
 慣れないことに私はびくりと肩を揺らした。
「レイが僕のことを男として好きでいてくれていなくても構わない。これから君に好かれるように努力するから」
 私は差しだされたバラを受け取った。
 一本一本が豪華で美しく自分がバラであることを誇りに思っているかのような姿は私に全く似つかわしくないように思えた。
「ありがとうございます。でも、私はこんなもの頂くのに相応しくないです」
「これは愛を伝える時に贈るものなんだ。頭が堅くてすまない。だけど、君の言う通りこんなものは君に相応しくない。それで……これを」
 私の足元で跪くラルフさんはどこからともなく小さな箱を取り出した。
「バラは君の美しさも可憐さも健気なところも表してはいない。僕はこっちの方が好きだし、君にぴったりだと思うんだ」
 長い指で器用に箱を開けると、白いクッションの上に細いシルバーブレスレットが座っていた。
「これ……」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ