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サンタとトナカイ、天使と私
第4章 王子
この温もりにずっと身体を任せていたい。
「レイ、震えてる」
「……はい」
「寒い?」
「部屋に入りませんか?」
震えているのは気温のせいだけではないと思う。
ラルフさんを見上げると真っ赤な鼻と数回瞬きをした瞳があった。
「そう、させてもらおうかな」
鍵のかかっていない扉を開け、ラルフさんを招いているのがなんだか信じられない気持で一杯になった。こんな古く小さいアパートにドイツ本社次期社長の有力候補の彼がきょろきょろと部屋を見まわしながら落ち着かない様子でいるのが可愛らしい。
高校生たちが食べ散らかしたテーブルを急いで綺麗にすると、熱いコーヒーとケーキを出した。
「こんなこと言うのは、男として情けないけれど……さっきの学生とはどういう関係?」
ラルフさんはコーヒーを一口啜ってすぐテーブルに置いた。
そういえば、まだ鞄に雅くんがつけてたサンタクロースの髭がある。
「雅くんは私の弟の同級生で」
「でも、彼はレイのことをずいぶん気に入っているようだね」
大事な商談でもしているかのようにラルフさんは両手を組み、テーブルの上で構え私の顔を見据える。
雅くんと初めて会ったときのことを思い出した。
「若いから、年上に憧れてるだけですよ。それに、あの子最近東京に来たみたいで不安な時に私に会ったから……」
「ふうん。でも、格好のいい青年だったね。手も繋いでいたし」
ラルフさんでも他人を格好いいと思うことが不思議に感じた。
「あ。あれは」
雅くんの真っすぐな眼差しと暖かい手を思い出してしまう。もし、あの時ラルフさんが現われなかったら私の気持ちは移っていただろうか。
それは、ない。
いくら雅くんが素敵な男の子でも私は彼を男として見ることはできなかっただろう。
「分かってるんだ。僕が大人げないことは。君よりも随分年上だし、ましてあの青年となんて倍は歳が離れている。それでも、彼だって男だ。僕のライバルであることに変わりはないし、それに」
「私、ラルフさんしか見えてません」
饒舌が止まらなくなりそうなラルフさんの言葉を止めた。
彼は瞬きも忘れたみたいに私の顔を食い入るように見つめた。恥ずかしくなって私は顔を伏せたくなったけれど、頑張ってその視線に応えた。
「本当に?」
「はい」
私はラルフさんの手をテーブルの上で握りしめた。
「レイ、震えてる」
「……はい」
「寒い?」
「部屋に入りませんか?」
震えているのは気温のせいだけではないと思う。
ラルフさんを見上げると真っ赤な鼻と数回瞬きをした瞳があった。
「そう、させてもらおうかな」
鍵のかかっていない扉を開け、ラルフさんを招いているのがなんだか信じられない気持で一杯になった。こんな古く小さいアパートにドイツ本社次期社長の有力候補の彼がきょろきょろと部屋を見まわしながら落ち着かない様子でいるのが可愛らしい。
高校生たちが食べ散らかしたテーブルを急いで綺麗にすると、熱いコーヒーとケーキを出した。
「こんなこと言うのは、男として情けないけれど……さっきの学生とはどういう関係?」
ラルフさんはコーヒーを一口啜ってすぐテーブルに置いた。
そういえば、まだ鞄に雅くんがつけてたサンタクロースの髭がある。
「雅くんは私の弟の同級生で」
「でも、彼はレイのことをずいぶん気に入っているようだね」
大事な商談でもしているかのようにラルフさんは両手を組み、テーブルの上で構え私の顔を見据える。
雅くんと初めて会ったときのことを思い出した。
「若いから、年上に憧れてるだけですよ。それに、あの子最近東京に来たみたいで不安な時に私に会ったから……」
「ふうん。でも、格好のいい青年だったね。手も繋いでいたし」
ラルフさんでも他人を格好いいと思うことが不思議に感じた。
「あ。あれは」
雅くんの真っすぐな眼差しと暖かい手を思い出してしまう。もし、あの時ラルフさんが現われなかったら私の気持ちは移っていただろうか。
それは、ない。
いくら雅くんが素敵な男の子でも私は彼を男として見ることはできなかっただろう。
「分かってるんだ。僕が大人げないことは。君よりも随分年上だし、ましてあの青年となんて倍は歳が離れている。それでも、彼だって男だ。僕のライバルであることに変わりはないし、それに」
「私、ラルフさんしか見えてません」
饒舌が止まらなくなりそうなラルフさんの言葉を止めた。
彼は瞬きも忘れたみたいに私の顔を食い入るように見つめた。恥ずかしくなって私は顔を伏せたくなったけれど、頑張ってその視線に応えた。
「本当に?」
「はい」
私はラルフさんの手をテーブルの上で握りしめた。
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