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サンタとトナカイ、天使と私

第1章 美女

 この気持ちは憧れなのだと自分に何度も言い聞かせた。
 しかし薫さんのことだ。勘付いていても不思議ではないかもしれない。

「私、そろそろ身を固める歳だと思ってね」
 運ばれてきたパスタを口に運んだ薫さんは溜め息と一緒に吐き出すように呟いた。
「そうですか? でも、薫さんすごく若いし……」
「ふふ、ありがとう。でも、親がもう結婚しろってうるさくってね。だから、付き合う人とはちゃんと結婚を考えられる相手がいいわけ。ラルフなんてぴったりじゃない?」
 薫さんのお母様は宝塚出身の美女、お父様は優秀な医者で薫さんのご兄弟はふたりとも医者になっていると聞いたことがある。
 そんな薫さんの家に相応しい人といえばラルフさんだろう。能力も給料もルックスも完璧。
 でも、薫さんはラルフさんの何を知っているというのだろう?
「私が前付き合ってた恋人にしつこく付き纏われていた時にラルフに助けてもらって、それからずっと社外でも付き合いがあったのよ。五年くらいかしら」
 聞いたことのない情報が私の身体を鈍い痛みで満たす。薫さんの最後の一言があまりにも私には重かった。
 五年前……私はまだ社会人にもなっていない学生の頃から二人は知り合っていたなんて。
「そう、なんですか」
「聞けばラルフって恋人いないみたいだし、ちょっと協力してくれないかしら?」
「私が?」
 薫さんは人の協力など必要としない人なのに、どうして急にそんなことをさほど親しくもない私に?
「ええ。ラルフが言ってたの。あなたはすごく良い友人だって。レイさんとはずっといい友人でいたいって言ってたわよ」
 私はフォークにパスタをまきつけたまま薫さんの顔を見上げた。
 美しい彼女の微笑はどこか不敵に見えた。正直、その美しさを憎く思った。
「だから。ね?」
「……はい」
 ラルフさんはやっぱり私のことを女として見ていないんだ。
 それもそうだ、私はまだ二十四歳で彼からすれば女性ではないのだろう。彼にとって数多いる友人のうちの一人に過ぎなかったのだ。
 なにを浮かれていたのか、自分がどこまでも情けなくなった。
 身長も低くて目立った美人でもない私なんかが相手にしてもらえるわけがなかったのだ。
 私は無理矢理笑顔を作って薫さんに協力しますと言った。
 薫さんは何故だか少し驚いたような顔をした。

 そして、私は薫さんの望通りにした。

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