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サンタとトナカイ、天使と私

第2章 神父

 次の日、偶然退社しようとロビーを歩いていると入口の大きな扉の隅にラルフさんが立っていた。 
 何を考える暇もなくラルフさんにイヴの予定を聞いた。
 幸い、ラルフさんは日本でのクリスマスを経験しようとしていたらしくベルリンに帰るのは先のこととのことだった。
 薫さんに協力するとなれば、私の気持ちを殺すことなど容易かった。ラルフさんの予定が空いていると知ると私は素直に喜んだ。
「それならイヴの夜はお時間ありますよね?」
「うん、レイ。それは僕も……」
 最近、ラルフさんは私のことをレイと呼び捨てにするようになった。
「よかったあ。じゃあ、このメモに書いてあるところに来てくれませんか?」
 薫さんは自分の名前を出さないでも自分のことだと分かるから言わないでいいと言っていたので、薫さんの名前は出さなかった。
 それまでにきっと何度も薫さんとデートを重ねていたのだと思うと不覚にも胸が痛んだ。
 まだ、憧れ続けようとしている自分が愚かで仕方ない。
 ラルフさんは私が差し出したメモを受け取ると真っ白な肌を少し上気させた。
 ああ、やっぱり薫さんとは相思相愛なのだと気付かされた。
「私、用事があるのでこれで」
 これ以上彼といるのは耐えがたく、軽く頭を下げてロビーから出ようとした。
「レイ!」
 広いロビーに響く大きな声で叫ばれ驚いて振り返るとまだ頬を赤らめたままのラルフさんが私を真っすぐに見つめている。
「お正月は実家に帰るのかい?」
「え? はい」
 私の両親は離婚しているから実家というわけではないけれど、母方の祖母の家に行って色々と手伝いをしようと思っていた。
「日本の正月をするの?」
「おせちくらいですけど」
「僕も一緒に行ってもいいかな」
 一瞬この人は頭がおかしいのかと思った。
 私はまじまじとラルフさんを見つめる。青い瞳を潤ませながら聞いてくる彼は体格がいいのに、なぜか子犬に見えた。

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