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サンタとトナカイ、天使と私

第2章 神父

「日本文化を体験しようと思ってね。あ、だめかな」
 ラルフさんの気弱な表情が私を身体ごと締めつけた。
 薫さんには怒られるかもしれないけれど、彼は純粋に日本を学びたいのだろう。もしかすると薫さんの家へ挨拶に行くために日本文化を知ろうとしているのかもしれない……なんて私の考えることじゃないか。
 それに、もしかしたら薫さんのことなんて関係ないのかもしれない。私の実家になんて異性の友人として来るのは普通ではないように思えた。
 少し期待をしてしまったことを否定はできない。
 私はあっさりと了解の返事をしていた。

 そしてクリスマス前日の今日、私はたまたま見てしまった。
 私は歳の離れた高校生の弟のために御馳走くらい頑張って作ろうと意気揚々と食材を買い込み、ついでに部屋を飾るオーナメントやキャンドルにそして、つい手に取ってしまったサンタのつけ髭がはいった袋を抱えて街を歩いていた。
 クリスマスイヴというのはクリスマス前日、つまり十二月二十四日の日暮れから始まるものであって昼間はまだイヴではない。ちなみにクリスマスイヴになった時からが『クリスマス』なのだ。なんて考えながらキリスト教の祝日を前に賑わっている街を眺めた。
 目を横にずらすとラルフさんの日本に置いている愛車が道端に止められていた。まさかと思って通り過ぎようとしたら私の道を遮るようにラルフさんが店から出てきて車に乗り込んだのだ。
 私はラルフさんの右手の真っ赤な薔薇の花束に気をとられているうちに車は発進していた。私のことなんかどこにいたって気にならないのだろう。気づく素振りも見せなかった。
 あの協力な香りと華やかさを見に纏った花束は薫さんへのプレゼントだろう。
 『一緒に行ってもいいかな』
 そう言ったラルフさんの潤んだ目が蘇った。
 どうして、そんなことを言ったの?
 期待させるようなことを言ったラルフさんを責めたい気持ちでいっぱいになったけれど、それよりも自分の馬鹿さ加減に腹が立った。
 そんな時に「赤鼻のトナカイ」が流れてきて泣きたくなったのだ。
 ラルフさんに気に入られているなんて自惚れていた私は笑いものだろう。それでも、トナカイさんは自惚れていないから私よりうんと偉いと思う。

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