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サンタとトナカイ、天使と私

第2章 神父

 そういえば街を歩いている人たちは誰も嬉しそうな顔をしている。
 若い恋人同士で手袋越しに手を繋ぎ歩いている光景は心が和む。老夫婦がゆっくりとした歩でケーキの箱をぶら下げている。子供たちや孫たちのプレゼントだろうか。
 皆がクリスマスの本当の意味も何も知らなくて、メディアに踊らされるままその日を祝おうとしていたとしてもそれはそれで素敵なことだ。
 人々の間を上手にすり抜けて大きな箱を抱えている宅配便のお兄さんは笑顔で、こんな日に働いているのになんて爽やかなのだろうと感動すらした。
 幸せな人たちの姿は私の心を癒した。私も早く家に帰って七面鳥を焼こうと思い、歩を速める。
 まだ明るいこの道も夜になればイルミネーションで輝きだすのだろう、あとで弟の光を連れて見に来ようかと考えた。
 小さなアパートの部屋につくと私は早速夕食の用意をし始めた。光はまだ部活で帰ってきてはいなかった。

 元々仲の悪い両親だった。いつも喧嘩が絶えず、時にお互いに手を出したり家の中の物を殴って壊したり、投げて壊したりしていた。
 そんな環境で暮らしていた私と光は必然的に仲の良い兄弟になった。家事もろくにしない母と帰ってきたらすぐにお酒を飲んで暴れようとする父と一緒に生活するには協力せざるを得なかった。
 私が物心ついた頃から私は母や父から体罰は受けていた。顔を何度も殴られて頬が切れたり鼻血が止まらなくなったりしても、私のほうでなく絨毯に血が落ちるのを心配する母が普通なのか、テーブルに私の頭を打ち付けたりお腹を殴ったりする父の叱り方が躾なのか怒りなのかも分からなかった。今でも実は分からない。そもそも誰に聞けば分かるのだろうか。
 私がしばしば顔や体に傷をつけて登校するので友だちも先生もどうしてできた傷なのかと聞いてくるようになった。その度に笑って誤魔化していた。親にこんな風に叱られていることが情けなく恥ずかしかったのだ。
 それでも、両親のことは好きだった。
 私が悪いことをしていない時は優しくて、しっかりしている二人が私の誇りでもあった。ただ、私さえいなければ二人が喧嘩をすることもなかったのでは……と今でも思い、申し訳なくなる。「生まれてこなければ良かったのに」なんて何度二人の口から聞いただろう。聞く度に悲しさというよりも自分の存在が憎くなり涙を流した。

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