恋愛短編集
第5章 母さんのオムライス
流石にいらないとは言えないので、口に含む。
ゆっくりと口を動かし、噛んでみると―うん。
炭の味しかしない。
「どうだ?美味いか?」
うずうずした笑顔で聞いてくる梓に対して、不味いよ、とは言えない。
俺は誤魔化し気味ににこりと笑って、梓の頭を撫でてやった。
味はともかく、梓が満足そうだからいいか。
と思いながら、急いで口の中のものを水で胃に流し込む俺。
春の暖かい風が笑っている気がする。
「なぁ聡」
そう言うと梓は立ち上がり、たたたっと屋上のど真ん中まで走った。
かと思うと、くるりとこっちを向く。
セーラー服のスカートの裾が春の風によってパタパタとはためく。
「今日は暖かいな」
そう言って両手を広げ、笑う梓。
目がきゅっと細くなる。
本当に楽しそうだ。