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恋愛短編集

第5章 母さんのオムライス


姉さんは俺の2つ上で、高校生だった。

車に突っ込まれて即死だったらしい。

そして、姉さんの葬式に父さんは来なかった。

それ以来、どこかへ消えた。

父さんが残していったのは、離婚届という紙切れと壊れた家族だけ。

それ以外は何もなかった。

何かあっても思い出せなかった。

そして母さんの精神が崩壊した。

一度箍が外れると全てのものを壊す。

精神的にもかなり幼くなってしまった。

でも見捨てられなかった。

だって俺にはもう、母さんしか家族がいなかったから…



だけど―

ある日、突然声が出なくなった。

声の出し方が分からなくなった。

今までどうやって声を出していたのか。

どうやって梓を、母さんを呼んでいたのか。

全く分からなくなった。

医者には精神的なものだろうと言われ、母さんと離れて暮らせとも言われた。

でも俺は…そんなこと、出来る訳がなかった。

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