恋愛短編集
第5章 母さんのオムライス
ただいま、そう言っているつもりで玄関の扉を開ける俺。
返事はなく、家全体が寝ているかのように物静かだった。
目の前に伸びる廊下は暗く、そして、その先のリビングからは光が漏れている。
俺がリビングに入ると、母さんはソファに座ってテレビを見ていた。
「あ、聡。お帰りなさい」
物音で気づき、振り向いた母さんは笑顔で俺に言う。
その笑顔は純真無垢な子供のようで、無性に悲しくなる。
ちょっと前まで母さんはこんな顔で笑わなかった。
もっと静かに、凛とした笑顔だった。
別に幼子のように笑うことが悪い訳じゃない。
問題はそうなった原因のほうだ。