
恋愛短編集
第5章 母さんのオムライス
ただいま、と言っているつもりでいつもの様に玄関の扉を開ける俺。
目の前の暗い景色も、光が漏れるリビングもいつも通り。
梓は着替えたらすぐに来ると言っていたが、おそらく30分程かかるだろう。
玄関で迎えるにしても何かしらのおもてなしをしなくては。
リビングに入るといつもの様に、物音でソファに座っている母さんが振り返る。
「あ、聡。お帰りなさい」
いつもの様な笑顔で言う。
…うん、今日は大丈夫。
梓が来るんだ、ちゃんとしていなきゃいけない。
いつもよりはまだましな笑顔で母さんと対峙する俺。
「今日はね、父さんも胡桃も早く帰ってくるから、みんなが好きなオムライスだよ」
分かっている、何度も聞いたこの台詞。
ギリギリと心臓を締め付けるその言葉―。
笑顔はましでも心臓の痛みは同じ…いや、それ以上か。
