
恋愛短編集
第5章 母さんのオムライス
「もうすぐ帰って来るからね!準備しなきゃ!!」
そう言う母さんを置いて、俺は冷蔵庫へと向かう。
何か…何か入れたい。
決して、オムライスなんかじゃない。
もっと関係のないものを口に含みたい。
でないと、腹の底から湧き出す真っ黒な悪いものに、自分が取り込まれて支配されそうだ。
そうだ…
昨日、梓にもらったイチゴ―。
あれを食べよう。
そう思い冷蔵庫に手をかけた時だった。
―視界の端にやけに赤いものが見えた。
いつもなら、黄色と赤色のものが乗っかっているその箱の中身が今日は一段と赤かった。
どくん、どくん―。
嫌だ、認識したくない。
でも身体は、心とは裏腹にそれを視界の中心へと捉えようとする。
どくん、どくん―
どくん。
