
恋愛短編集
第5章 母さんのオムライス
「あぁそうか…声が出ない…」
そう言うと母さんは俺を掴む手を緩めた。
床に倒れ込む俺。
上から見下ろす母さん。
「声が出ない?そんな冗談言わないで。聡まで私を見捨てるの?」
分かっている。
さっきから口から出る言葉が矛盾しまくっているのは分かっている。
それでも母さんの言葉は確実に俺の心を抉る。
深く、鋭く―。
痛い。
「何か言いなさいよっ!!」
そう言って母さんは再び皿を投げつける。
身体の外には切り傷が増えていく。
心の中にも傷が増えていく。
どんどん、どんどん。
俺はもう動くことも出来なかった。
梓がやって来て警察やらを呼んだのは、それから15分もしない内だった。
