
恋愛短編集
第5章 母さんのオムライス
「なぁ、坊主。流石に今回はどうしようもない。お母さんを病院に連れていくぞ」
―涙の温度が急激に下がった。
悔しくて…悲しい。
「これ以上わがままを言っても仕方がないだろ?お母さんを思うならそれが一番だ」
分かっている。
母さんを思うなら…そんなこと分かっている。
じゃあ、何故しなかったか―。
俺の為だ。
気がついたら自分の部屋に向かって走り出していた。
「坊主!」
後ろから山本さんが叫ぶ。
だが、振り返らずに自室に逃げ込んだ。
わがままだなんて自分が一番理解している。
それでもしなかったのは、あの頃を俺自身の手で取り戻したかったから。
あのオムライスをみんなで、美味しいと食べていた頃に戻りたかったから。
もう…無理なのか…
俺はドアに背をつけ、その場に崩れ落ちた。
