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記憶売りのヤシチ

第2章 真実

次々と部屋を見て回るけれど、ヤシチはどこにもいない。いったいどれだけこの屋敷は広いのか。疲れてきたからか、自然と視線が下がる。と、ふと足元を見た。

「……!!」

あの文字列が、膝上まで伸びていた。あ、と声がこぼれる。映像が、場面が。記憶、が…フラッシュバックする。

――熱い口づけ――名残惜しそうに離れていく腕――驚き、見開かれた目――刻まれていく文字列――ぐったりとした男性――倒れる女性。


顔から血の気が引いていくのがわかった。頭痛が警鐘のように響く。この文字列は…この術は。

弾かれるように走り出した。…時間がない。バタン、バタンと、乱雑に戸を開けていく。

――よく、

「いない…」
戸を閉め直す余裕はない。そんな悠長なことはしていられなかった。ドタドタと急ぐ。

「ここも…ここも」
開ける音と、走る音が屋敷じゅうに響く。

――知っている、

「ここもだめ。…いない」
戸を開ける。

――この術を。

「どこに…」
戸を開ける。

――なぜなら、

「どこにいるのッ!!」

そして、恐らくこの屋敷で最後の部屋。なんとなく他とは少し違う古い戸に、ある種確信めいたものを感じながら。


手をかけ、開けた…――。

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