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記憶売りのヤシチ

第1章 記憶の飴

「悲しいものや、つらいものはないよ。幸せな気分になれるように、端正込めて作ったんだ」
彼はそう付け加えた。

「じゃあ…」
一つ、もらおうかしら。私は彼に近づくと、小瓶の中の色とりどりの玉に目移りさせた。そして、少し悩んだ後、淡い桃色の玉に目が留まった。

「これを、ちょうだい」

「…これだね?」
彼はそれをつまみ上げ、私は首を縦に振る。手のひらへポトリと落とされたそれを、じっと眺めた。…これは、どう見ても。

「食べていいよ」
少し笑いを含んだ言葉にはっとすると、手のひらのそれを口に放り込んだ。

甘美な味が、口の中いっぱいに広がる。舌の上でコロコロと転がすと、さらに甘さが溶け出した。

「美味しい」

やっぱりそれは飴だった。なんの変哲もない、ただの飴玉。…と、思っていたが。


「……!?」

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