記憶売りのヤシチ
第1章 記憶の飴
瞬間、頭の中に映像が飛び込んできた。小さな手がクレヨンを握り、画用紙に絵を描いている。
傍らには、若い女性。鼻から上は見えないが、どこか懐かしい面影のある口もとだ。クレヨンの色が変わっては次々に描かれていく様子を、穏やかに眺めている。
やがて、クレヨンを置き、嬉しそうに画用紙を持ち上げる私。そんな私の頭を、女性は優しく撫でた。
ふ、とロウソクが燃えつきるときのようにその情景が消える。いつのまにかつぶっていた目を開けると、ぼんやりとした視界がだんだんくっきりとしてくる。目の前には、先ほどと同じように青年が立っていた。
「…どうだったかな?」
「なんだか懐かしいような…不思議な気持ち。とても、あたたかな気分よ」
「それはよかった」
ふ、とヤシチが笑う。
「その飴は…忘れていた幼い頃の記憶を思い出させてくれるものなの?」
ぼんやりと、夢心地のまま言うと、ヤシチはさらにくすくす笑った。
「もっとほしいかい?」
「ええ」
「じゃあ、ここで待っていてくれるかい。もっといいものをあげる」
くるりと背を向け、屋敷の奥へと廊下を歩いていく。
「待って」
私は慌てて呼び止める。ヤシチが立ち止まり、振り向いた。
「――あなたはこれを“売っている”のよね。…私、お金を持っていないわ」
一つ食べてしまったけれど、その代金も今は持っていない。不安げに言う私に、そんなことか、とでも言うようにヤシチは笑う。
「お代は後でいいよ」
そう言うと、ヤシチは再び背を向けた。
傍らには、若い女性。鼻から上は見えないが、どこか懐かしい面影のある口もとだ。クレヨンの色が変わっては次々に描かれていく様子を、穏やかに眺めている。
やがて、クレヨンを置き、嬉しそうに画用紙を持ち上げる私。そんな私の頭を、女性は優しく撫でた。
ふ、とロウソクが燃えつきるときのようにその情景が消える。いつのまにかつぶっていた目を開けると、ぼんやりとした視界がだんだんくっきりとしてくる。目の前には、先ほどと同じように青年が立っていた。
「…どうだったかな?」
「なんだか懐かしいような…不思議な気持ち。とても、あたたかな気分よ」
「それはよかった」
ふ、とヤシチが笑う。
「その飴は…忘れていた幼い頃の記憶を思い出させてくれるものなの?」
ぼんやりと、夢心地のまま言うと、ヤシチはさらにくすくす笑った。
「もっとほしいかい?」
「ええ」
「じゃあ、ここで待っていてくれるかい。もっといいものをあげる」
くるりと背を向け、屋敷の奥へと廊下を歩いていく。
「待って」
私は慌てて呼び止める。ヤシチが立ち止まり、振り向いた。
「――あなたはこれを“売っている”のよね。…私、お金を持っていないわ」
一つ食べてしまったけれど、その代金も今は持っていない。不安げに言う私に、そんなことか、とでも言うようにヤシチは笑う。
「お代は後でいいよ」
そう言うと、ヤシチは再び背を向けた。