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記憶売りのヤシチ

第1章 記憶の飴

何か忘れているような気がしながらも待っていたが、戻ってきたヤシチの姿を見たらそんなことは吹き飛んだ。

先ほどよりも大粒の飴玉が溢れんばかりに入った、大きめの瓶を抱え込んでいた。それを片手で持ち直すと、銀のふたを開け、中身をひとつ取り出した。

「はい、あげる」
オレンジと白のマーブル。さっそく口に頬張るとじんわりと甘さが広がると同時に、また映像が流れ込んできた。


これは…誰かの誕生日だろうか。ケーキ、そしていつもより少し豪華な料理が並ぶテーブルを、私たちは囲んでいる。私と…先ほどの女性。…今度は顔が見える。にこにこと微笑む母だ。

目の前に置かれたケーキをもう一度見る。火の灯されていないろうそくが、5本。…そうか、これは私の、五歳の誕生日だ。

と、玄関で物音がした。続いて、ただいま、という男性の声。帰ってきたわね、と笑顔のお母さん。玄関まで走り出す私。

パパ、おかえりなさい。走りよる私に、父は、お誕生日おめでとう、と言って何かを取り出した。ケージに入った子犬。そうだ。これは私が飼っていた…。

名前は…



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