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記憶売りのヤシチ

第1章 記憶の飴

ふ、と映像が消え、また屋敷の玄関に立っていた。ひんやりとした空気が、足下をかすめる。なんだか周りが暗く感じた。

「…懐かしいかい」
ぼんやりと余韻に浸る私に、ヤシチは言った。

「ええ…とても」
そっと胸に触れる。幸せな記憶は、心をぽかぽかとあたたかくしてくれる。

「もっとほしいかい?」

「そうね…だけど」
私は言葉を濁らせる。

「…いくらくらいするの?」
ちらりと見ると、青年はくつくつ笑った。

「そんなに高くないから、大丈夫だよ。それに、ここからはおまけする。ただでいいよ」

「ほんと!」
こんなにいい人を、見たことがあるだろうか。

「ねえ…あなたのこと、名前で呼んでもいい?」
私がもじもじして言うと、彼はくすりと笑った。

「もちろん、いいよ」

「ありがとう、…ええと…ごめんなさい、もう一度教えてもらえるかしら」

「…ヤシチだよ」

「ヤシチさん。あなたにも私のこと、名前で呼んでほしい」

「……君を?」

「ええ。私のことはこれから…――」

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