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記憶売りのヤシチ

第1章 記憶の飴

…あれ。


「…どうしたの?」
ヤシチが私の異変に気がつく。

「これから…」
~~って呼んで。そう言いたいのに、言葉につまる。おかしい…わからない。なんで、どうして。自分の名前を思い出せないなんて…。

そこで、はっとする。

「まさか…その飴…」
飴玉の入った瓶、続いてヤシチを見た。

考えたくないけれど…その飴のせいとしか思えない。

と、突然ヤシチがケタケタ笑い始めた。

「…ばれちゃったか。あーあ、早かったなぁ」
馬鹿にしたように笑いながら言う。ヤシチの豹変ぶりに、愕然とした。

「何を、したの…」

「…何も?」
はたと笑うのをやめ、ヤシチは無感情な声で言った。

「新しく何かを入れたら、既にあった何かが消える。別におかしなことじゃない」
驚愕して何も言えないでいる私に、ヤシチは言葉を続けた。

「愚かだったのさ、君が」
とどめの一言を告げると、ヤシチは背を向けた。が、思い出したようにまた振り向く。

「あ、言っておくけど…君が忘れているのは、多分、名前だけじゃないよ」
くすっと笑うと、じゃあね、と奥へ歩いていく。

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