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手紙~天国のあなたへ~

第4章 野辺送り

 留花はくるりと振り向き、成洙をきつい眼で睨んだ。
「成洙おじさんは、私のお父さんじゃないし、私は成洙おじさんの娘でもない! 私は私の生きたいように生きるんだから、もう構わないで」
 留花は叫ぶと、一目散に家に駆け込んだ。
―あの男は止めておけ。あんな男と一緒にいたって、お前が不幸になるだけだ。
 つい今し方、成洙が放ったあのひと言が祖母の忠告と重なり、耳奥でわんわんとこだました。
 もちろん、成洙と香順が〝止めておけ〟と言うその言葉の意味はそれぞれ違う。香順は愃の物腰も穏やかで気遣いのできる人柄を認めていた。愃は初めて家に来た日、寝たきりの香順に向かって丁寧に拝礼したのだ。あの挨拶一つを見ても、愃が成洙の言うような軽重なだけの若者ではないことは明らかだ。
 でも、どちらにせよ、誰が見ても、愃と自分は到底、似合いの夫婦や恋人には見えないのは間違いなさそうだ。

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