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手紙~天国のあなたへ~

第5章 夫婦

 大体、この国では身分の違う者同士の婚姻は正式に認められていない。両班と常民は幾ら愛し合っていても、所詮は結ばれない宿命なのだ。つまり、愃が留花に〝結婚して欲しい〟と告げた想いがどれほど真摯であったとしても、法律的にも常識的にも二人の結婚は容認されない。
 それでも、留花は構わないと思っている。たとえ世間が認めてくれなくても、愃が留花を〝妻〟だと言い切るなら、自分は何があったとしても、彼の妻なのだと信じられた。
 愃の本名は〝李愃〟だというが、彼の住む屋敷がどの辺にあるのか、一体何の官職についているのかすら、留花は知らないのだ。もっとも王族であれば元々、官職にはつけないしきたりゆえ、名前だけの名誉職についているだけではあろうが。
 香順は愃が王家に連なる一員ではないかと予見したが、それが事実かどうかもまた判らないのだ。このような有り様で、本当に〝妻〟といえるのかどうかは疑わしい。

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