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手紙~天国のあなたへ~

第5章 夫婦

 誰が見ても、留花は男の都合の良いように利用されているだけだと思うに違いない。それでも、留花は愃を信じた。
 愃がひそかに通ってくるようになってから、み月が経ったある日の夕刻。
 もう都にもそろそろ花便りが聞こえ始める季節になっていた。二人がひそやかに愛を育んでいた間、季(とき)は冬から春にうつろったのだ。
 その日は朝から淀んだ空が都の家々の上に垂れ込めていた。まるで春から一挙に冬に逆戻りしたような陰鬱な空模様に、留花の心も自ずと塞ぐ。
 愃の訪(おとな)いはこのひと月、間遠になりがちだ。これを世間では男の夜離(よが)れというらしいが、留花は時ここに至っても、愃を信じていた。いや、信じたかったのだ。
 たとえ世間の人が弄ばれているだけだ、利用されているだけだと言っても、愃は不実な人ではないと言い張りたかった。

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