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手紙~天国のあなたへ~

第5章 夫婦

 もちろん、全くのでたらめだ。留花は愃から金を受け取ったことは一度たりともない。今も仕立物の内職を続け、あの高慢なお嬢さまのいる柳家にも時々、仕立物を納めにいっていた。
 たまに愃がノリゲなどの細々した装飾品を土産に携えてくるときがあり、そんなときは突き返すのも申し訳なくて、貰っていた。だが、経済的に援助を受けた憶えはない。
 以前のように近所づきあいがあれば、折角拵えたご馳走をお裾分けして無駄にしないで済んだのだが、生憎と今は誰もが留花を白い眼で見る。到底、拵えたご馳走を〝食べて〟と持ってゆけるような状況ではないのだ。
 今日の夕食は愃の好物のチゲだ。それに、炊きたての飯、食後には餅菓子に黄粉をまぶしたもの、即ちデザートまである。
 チゲには様々な具が入っている。寒い夜には、はやり鍋物がいちばんだろう。愃はチゲに眼がないので、今年の冬、留花は愃が来る度にチゲを作った。

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