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手紙~天国のあなたへ~

第6章 別離

  別離     

 更に月日を経た。桜が咲き、散り、やがて都にも夏がやって来る。愃とめぐり逢ってから、季節はゆっくりと、しかし確実にうつろっていった。その間、二人は幾度も逢瀬を重ねた。愃は目立たないように夕刻、留花の許を訪れ共に夜を過ごし、明け方に帰ってゆく。
 最早、口には出さずとも、愃が極力、己れの姿を人の眼に晒したくないと考えているのは明らかであった。
 しかし、留花はそのことについて愃自身に敢えて訊ねはしなかった。もし仮に訊ねて
―そのとおりだ。私はそなたとの仲をできるだけ世間に知られたくないのだ。また、そなという存在もできるなら、表に出したくない。
 などと断言されてしまったら、もう立ち直れない。

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