
手紙~天国のあなたへ~
第6章 別離
留花はキッと眦をつり上げた。
「良い加減なこと言わないで。私はあの方に棄てられたわけではないわ」
「なら、何でのあの気障ったらしい両班はここのところずっと来ないんだ? この間、あの男が来てからかれこれもうひと月近くになるじゃねえか」
成洙がいちいち愃の来た夜を憶えているというのも愕きではあったが―、恐らく成洙なりに留花の身を心配してくれているのだ。成洙は口は滅法悪いが、根は朴訥で優しい男だ。身寄りのない留花が両班に良いように騙されていると気が気ではなかったのだろう。
どこかから種が飛んできたのか、家の前に紫陽花が一、二本自生していた。梅雨も半ばを迎え、紫陽花は濃い紫に染め上がっている。
雨にしとしとと打たれている紫陽花はこの上なく綺麗ではあったが、留花の眼にはうなだれ泣いているようにも見えた。
「前にも言ったでしょ、私のことはもう放っておいてちょうだい」
「良い加減なこと言わないで。私はあの方に棄てられたわけではないわ」
「なら、何でのあの気障ったらしい両班はここのところずっと来ないんだ? この間、あの男が来てからかれこれもうひと月近くになるじゃねえか」
成洙がいちいち愃の来た夜を憶えているというのも愕きではあったが―、恐らく成洙なりに留花の身を心配してくれているのだ。成洙は口は滅法悪いが、根は朴訥で優しい男だ。身寄りのない留花が両班に良いように騙されていると気が気ではなかったのだろう。
どこかから種が飛んできたのか、家の前に紫陽花が一、二本自生していた。梅雨も半ばを迎え、紫陽花は濃い紫に染め上がっている。
雨にしとしとと打たれている紫陽花はこの上なく綺麗ではあったが、留花の眼にはうなだれ泣いているようにも見えた。
「前にも言ったでしょ、私のことはもう放っておいてちょうだい」
