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手紙~天国のあなたへ~

第6章 別離

 留花は泣きながら家に駆け戻った。蓑と笠を乱暴にむしり取り、床に放り投げる。両膝を抱えて座り、その間に顔を伏せて泣いていると、表の扉をそっと開ける気配があった。
「おい、留花」
「もう良いってば!」
 我ながら取りつく島もないとは思ったが、今は他人の心まで思いやるゆとりはない。
「済まん、あんな風に言うつもりはなかった、悪かった。だが、悪いことは言わない。あの男のことは忘れた方が良い。お前はまだ若い。幾らでも、これからやり直せるさ」
 成洙の思いやりに溢れた声が間近で聞こえた。他の女房たちとは異なり、留花をふしだらな娘、身持ちの悪い女と決めつけ、男に棄てられたことを嘲笑っているわけでもない。ただ心から純粋に娘のように思っている留花の将来を案じているのが伝わってきた。
 それでも、留花は顔を上げようとはしなかった。

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