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手紙~天国のあなたへ~

第6章 別離

 愃が来なくなってから、留花は食欲が落ちた。―というよりは食べられなくなったのだ。食べたいという欲求はあるのだが、身体の方が受けつけなくなってしまったのだ。無理に呑み込もうとすると、途端に烈しい吐き気がして、すべて戻すことになる。だから、この頃では、食べたくても食べないようにしている。
 ここ二、三日はろくに何も食べず、水だけを飲んでいたにも拘わらず、頑固な吐き気は突如として留花を襲い苦しめた。水を飲んでも吐いてしまうなら、水も飲めない。
 意地よりも蜜柑を食べるという欲求に勝てなかったのは、空腹感よりはむしろ喉の渇きの方かもしれなかった。
 が、案の定、ふた口ほど囓っただけで、いつもの嘔吐感が胃の腑の底からせり上がってきて、留花は胸許を片手で押さえた。
 ろくに食べていないから、吐瀉物だって透明な液体だけだ。その場に突っ伏して咳き込み続けた留花は苦悶のあまり、涙眼になった。

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