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手紙~天国のあなたへ~

第6章 別離

 それって、もしかして、赤ちゃんが私のお腹で育っているということ? 母親のいない留花は同世代の少女たちに比べると奥手であり、男女間の性的なことにおける知識も関心も希薄だった。例えば母親たちの代わりに幼なじみたちが河原に集まって洗濯しているときは、必ずお喋りに興じているものだが、そんなときの話題はどこの家の息子が格好良いだとか、あの娘はもうすぐ嫁にゆくそうだとか、その手の男女絡みの話題が多い。
 かつてまだ近隣の娘たちから仲間はずれにされていなかった頃、留花は彼女たちに混じって洗濯しながらも、自ら話に入るわけではなく、いつも黙々と手を動かし聞いているだけだった。
 祖母の香順は留花に世間で生きてゆく手立ては教えてくれたが、男との付き合い方までは教えてくれなかった。そんな留花であってみれば、そもそも妊娠というものが具体的ににはどうやって起こるか、赤ン坊はどのようにして生まれるのかすら知らず、愃に抱かれた時初めて、男女の理(ことわり)を知ったほどであった。

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