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手紙~天国のあなたへ~

第6章 別離

 愃は初め、何も知らない無垢な留花をなおのこと愛しく思い、閨の中で優しく色々と教えてくれたものであった。今でも愃が睦言のように熱い吐息混じりに耳許で囁いた言葉の数々を思い出すと、頬が赤らんでくる。
 しかし、今ではその想い出も随分と遠い昔のものになってしまった。愃の心が留花から離れたのだとすれば、それらの想い出は留花にとっては価値のあるものだとしても、愃自身にはとうに色褪せた記憶の残骸でしかないだろう。

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