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手紙~天国のあなたへ~

第2章 雪の記憶

 第三者の登場で、見物人から一瞬、どよめきが洩れた。新たな男の出現に、人の輪が自然に割れ通り道ができる。
「そ、そう言やア、脚の方は大丈夫かも、な。少し挫(くじ)いただけかもしれねえ。だが、腕の方は本当に折っちまったみてえだぞ」
 今更、凄むように言うのに、ふいに現れた若い男は心もち肩をすくめた。
「他人(ひと)を疑うことを知らぬ心優しいお嬢さん(アガツシ)をうまく騙すつもりだったんだろうが、世の中、そう甘くはないぞ?」
 その男は、難癖をつけてきた自称職人よりは、やや若そうではある。身の丈は職人と称する男よりもむしろ低いくらいなのに、不思議と存在感のある男だ。

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