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手紙~天国のあなたへ~

第6章 別離

 陰影のある横顔もなまじ整っているだけに、余計に石像めいた無表情さを際立たせていた。
「気紛れに手折られて、飽きれば使い捨ての雑巾のように棄てられる―。それが野辺に咲く花の宿命というものではありませんか」
 折角訪ねてきてくれたのに、ひと月ぶりの再会だというのに、こんな恨み言しか言えないのが情けない。こんな有り様では、余計に愃に嫌われてしまうだけだ。
 しかし、房に入ってきた愃をひとめ見たその瞬間から、留花は既に敏感に嗅ぎつけていた。それは紛うことない哀しい別れの予感であった。
 いつだったか―、留花の名を訊ねた時、愃は良い名だと褒めてくれた。その時、彼はまたこうも言ったのだ。留花が花だとしたら、何の花だろうと。

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