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手紙~天国のあなたへ~

第6章 別離

 そこで女の声はいっそう低くなり、聞き取れなくなった。
「それにしても、酷い話だねえ。米びつに閉じ込めるだなんて」
「まさか、やっぱり嘘だろう。あり得ないよ」
「だって、女官に上がっている姪がその眼でちゃんと見たっていうんだから、間違いないよ。亡くなられたときの世子邸下のご様子は、それはもう見てはいられないほどお気の毒な有り様だったって。見る影もないくらい痩せていたそうさ」
「世子さまもお気の毒に、実の父親に殺されちまうなんてねえ」
 まだひそひそと囁き交わす商人たちからさほど離れていない場所に、四十前後と見える女たちがいた。どうも彼女たちが先刻の噂をしていたらしい。
「あ、あの」
 留花が声をかけると、片方の女が胡乱な眼で留花を見た。

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