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手紙~天国のあなたへ~

第6章 別離

 自分も愃の後を追って死んでしまえば、もう二度とこんな哀しすぎる話を聞かなくて済む。愃は父を心から慕っていたのだ。愛して貰えないから、余計に父の愛を欲し求めていた。なのに、父である王は、そんな息子を無情にも殺したのか。しかも、米びつに閉じ込め、餓死させるなどという世にも残酷極まりないやり方で。
―それゆえ、少なくとも私は父上を恨んではいない。ただ、普通の父と子らしい想い出が父上との間には何もないから、今となっては、それだけが残念だ。
 最後の夜に愃がふと口にした父を慕う言葉が今でも忘れられない。
 愃のあの深い声をもう一度聞きたい。春風のような優しい笑顔を見たい。
 留花はゆっくりと意識を手放していった。
 

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