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手紙~天国のあなたへ~

第7章 終章・エピローグ

「お母さん(オモニ)、見て見て。雪だるまを三つも作ったんだよ」
 無邪気な声に、留花は優しい笑みをひろげる。
 十歳くらいの元気な男の子が嬉しげに顔をほころばせて彼女を見上げていた。そう、この子どもこそ、愃との間に生まれた息子であった。
 息子の名は惺(セイ)と付けた。〝惺〟という字には物事や真理を自ずから悟るという意味がある。あのひとの忘れ形見の息子は、父親の生命と引き替えのようにこの世に生を受けてきた。そのことの意味、自分がこの世でなすべきことを悟り、亡き父君の果たし得なかった志を受け継いで、己れのやりたいことをまっとうして欲しいという願いを込めた。
 愃が死んでから、留花は息子を一人で産み、育ててきた。愃があれほど心配していたこともあり、この子の身辺には常に注意を配ってきた。

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