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手紙~天国のあなたへ~

第7章 終章・エピローグ

 恐らく、愃が留花の許に通っていたことは英祖には知られているに違いない。愃は彼と一緒にいることで、留花までもが危険に晒されることをひどく怖れていたのだ。歴代の王は優れた諜報部隊を持っているという。間諜を使えば、たとえ宮外でも愃の行動はほぼ把握できたはずだ。
 幸いにも、惺はつつがなく成長した。留花のような身分の賤しい女が産んだ、しかも父親が誰かも判らぬ子である。惺が世子の血を引く、つまり王家の血筋を引く子どもであることなど、証明できる人は誰一人としていない。たった一つの証は愃が別れ際にくれた玉牌だが、留花はあの玉牌を箪笥の奥深くにしまい込み、息子にさえ見せなかった。
 惺は知らなくて良いことだ。留花としては息子に
―お前のお父さんはこの国の世子だった。慈しみ深く、民の安寧を心から願っておいでのお優しい方だった。立派な王さまになるはずのお方だったのよ。

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