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手紙~天国のあなたへ~

第2章 雪の記憶

「放して下さい」
 そのひと言に男が手を放した瞬間、留花は捕らわれた小鳥が鳥籠から放たれたかのような勢いで駆け出した。
 降りしきる雪に頓着することもなく、男はただその場に立ち尽くしていた。そっと手のひらをひろげると、さらさらとした粒子の細やかな雪は音もなく掌(たなごころ)に舞い降り、まばたき一つもしない間にあとかたもなく消える。
 男は何かの想いを振り切るように小さく首を振ると、少女の走り去ったのとは別の方向へとゆっくりと歩き出した。

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