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手紙~天国のあなたへ~

第3章 血に濡れた鳳凰 

「ええ、おばあちゃんの薬を買いに市場まで行くの」
「市場は人が多いから、質の悪い奴に眼をつけられないように気をつけろよ」
 三日前の掏摸の件がふと留花の脳裡によぎった。突如として留花の眼の前に現れ、掏摸に絡まれていた留花を救ってくれた。あの両班が助けてくれなければ、留花は一ヵ月分の収入を根こそぎ持ってゆかれるところだったのだ。
 何者をも圧倒するかのような鋭い眼光を湛えながらも、時折、ひどく淋しそうに見える男だった。身分の高そうな方だったし、もう、この先、お逢いすることもないだろうけれど―。
「判ったわ、十分気をつけます」
 成沫を安心させるように元気良く応え、留花は歩き始める。
 成沫はずっと一人で暮らしている。少なくとも留花の知る限りにおいては、という意味だ。

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