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手紙~天国のあなたへ~

第3章 血に濡れた鳳凰 

 祖母の香(ヒヤン)順(スン)によれば、成沫にも昔は妻子がいたという。だが、留花の両親が亡くなったあの流行病(はやりやまい)が成沫の大切な妻と子の生命をも奪っていったそうだ。
 両親があいついで亡くなったあの時、留花はまだやっと三つになったばかりで、当時のことは殆ど記憶にない。成沫の亡くなった娘はやはり三歳、生きていれば今年十八歳の留花と同じだ。
―成沫は昔から口数の少ない男ではあったが、ああまで無愛想になったのは、やはり女房と娘を一辺に失ってからだのう。
 香順はやるせなさそうに言う。成沫が隣に住む留花をこうして何かと気にかけてくれるのも、やはり死んだ娘と同年だからということもあるのだろう。
 留花は成沫に礼を言うと、軽い脚取りで薬屋に向かった。いつもよく行く店は町中にあって、店舗そのものはさして大きくはないが、品揃えも豊富で、ひっきりなしに入れ替わり立ち替わり客が訪ねてくる。
 薬屋の主人は留花を見ても、大抵、良い表情(かお)はしない。留花がその場できちんと薬代を払えることが滅多とないからだ。

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