
手紙~天国のあなたへ~
第2章 雪の記憶
雪の記憶
留花(リユファ)は小さな声で見送りに出てきた女中に礼を述べると、踵を返した。使用人が出入りするお屋敷の勝手口から一歩外に出ると、思わず凍りついてしまうような真冬の寒さが身を包む。
少し強い風が吹いただけで、吹き飛ばされてしまいそうなそのか細い後ろ姿を眺めていた女中は人知れず嘆息する。
「全っく、この世には神も仏もいないのかねえ。あんな良い娘(こ)が何でああまで苦労しなきゃならないんだか」
人の好い丸顔の中年女は、この商家で働く女中である。この屋敷の主人柳(ユ)千福(チヨンボク)は父祖の代から都漢(ハ)陽(ニヤン)でも名の知れた豪商であり、彼自身もなかなか辣腕の商人ではあるが、その分、冷酷非道で商いのためなら、あくどいことをやってのけることにも、いささかの躊躇も見せない。
留花(リユファ)は小さな声で見送りに出てきた女中に礼を述べると、踵を返した。使用人が出入りするお屋敷の勝手口から一歩外に出ると、思わず凍りついてしまうような真冬の寒さが身を包む。
少し強い風が吹いただけで、吹き飛ばされてしまいそうなそのか細い後ろ姿を眺めていた女中は人知れず嘆息する。
「全っく、この世には神も仏もいないのかねえ。あんな良い娘(こ)が何でああまで苦労しなきゃならないんだか」
人の好い丸顔の中年女は、この商家で働く女中である。この屋敷の主人柳(ユ)千福(チヨンボク)は父祖の代から都漢(ハ)陽(ニヤン)でも名の知れた豪商であり、彼自身もなかなか辣腕の商人ではあるが、その分、冷酷非道で商いのためなら、あくどいことをやってのけることにも、いささかの躊躇も見せない。
